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第6話 光合成が必要なんだね

 

閉鎖病棟に入院中の,統合失調症の男性患者さんの話です。
彼はだいたい2週間に1度ほど,夕方~夜間にかけて症状が悪化します。
症状は毎回同じです。靴を持ち,病棟入口に立ち焦燥感が強く,震えながら次のように訴えます。「出してください。帰らないといけない……」「妻と子どもがマンションで待っている……」。とにかく病棟の外へ出してほしいと訴えつづけます。
過去には病棟から飛び出したこともあり,多くの職員は彼を「要注意の患者さん」と考え,外へ行くことはできないだろうと考えているようでした。
私は症状の落ち着いている時期に彼と話す機会があり,入院前のエピソードを伺いました。奥さんと子どもがいたが,精神症状の悪化により自分の意思がはっきりしない最中に離婚してしまい,入院したということでした。
この話を聞いてから私は「どうして,そんなに外に行きたいのか?」「ただ,この場所から逃げ出したいのだろうか?」「奥さんや子どもに会いたいからか?」などいろいろな思いが浮かびました。また,「私だったらその思いのまま入院していたらどうだろう。きっと,安心して入院治療を続けられないかもしれない」とも考えました。そして「実際に一緒に外に出てみたらどうなのだろうか?」と考えるようになりました。なんとか,話を聞くことで,解決の糸口がみつからないか。彼の思いをそのままにしないで,行動したら何か変わるかもしれない。症状の悪化に備えて,事前に主治医に病棟外に出る許可をとりました。また,院外に出た際に危険な場所がないかを事前に確認しておき,歩くルートを決めておきました。
そのような準備を進めていると,彼のいつもの「出してください。外へ行きたい。妻と子どもが……」という訴えが出てきました。私は「いいですよ。今日は行きましょう。一緒に私がつきあいますね」と答えました。
彼はふいをつかれ,きょとんとした表情で私を見ていましたが,私について外に出ました。
私は彼が急に走りだしたり,「家まで行きたい」と言われるのではないかと心配でしたが,彼は静かに落ち着いて歩いていました。病院の周辺を歩いていると,彼のほうから,家族の話や将来はどうしたいのかなど,退院に向けた心配事について話しはじめました。
この最初の試みは無事に終了し,その後も数回,彼の症状が出るとつきあいました。そのうち,彼の「外へ行きたい」という強い訴えはなくなりました。もっと,違う方法で彼なりの「外へ出ること」を模索しはじめたようです。
閉鎖病棟の患者さんの,「外へ行きたい」という訴えを,そっくりそのまま受け入れることはないと私は考えていました。しかし,ただ「ダメ」と拒否しつづけることだけでなく,「外へ行きたい」という彼の言葉の奥にある感情や抱えている背景を受け入れたことがよい方向へ向いたのではないかと思いました。
あらためて,精神科看護の深さを考えさせられた場面でした。

(長野県・社会医療法人城西医療財団ミサトピア小倉病院・高山順一)

 

 

第5話 あの駄菓子屋のおばちゃん?

 

女性の認知症の患者様(以下,Aさん)への対応です。
Aさんは,入院してから物盗られ妄想と,帰宅要求,それと入浴時の拒否でスタッフを困らせていました。物盗られ妄想については,Aさんが訴えられていた「黒い帽子」と「黒いカバン」を,家族に持って来ていただくことで訴えがなくなりました。帰宅要求については,入院前にデイケアを利用していたため,Aさんは入院してからもデイケアに来ていると思っていたようです。16時前後になると「帰らんといけんのよ。女にはやることがいっぱいあるのよ!」と興奮して訴えていました。「いまは薬の調節のために入院しているのですよ」と説明しても,「どこも悪くないのだから入院しなくてもいいのよ!」とさらに興奮。あるとき,Aさんの住所から,私が学生のときに通っていた駄菓子屋のおばちゃんかもしれないと思い,Aさんに「あの駄菓子屋のおばちゃん?」と聞いてみると,「は,はい……」と苦笑いされました。それからは帰宅要求があっても「おばちゃん大丈夫ですよ。おじちゃんに言っておきますから」というと「今日はここに泊まればいいんですね」と興奮されなくなりました。
認知症の方にはいわゆる「なじみの関係」がよいと言われています。接遇とのからみがあり難しい面がありますが,今回は「なじみの関係」によって対応できたケースだったと思います。ちなみに入浴の拒否は「駄菓子屋のおばちゃん」でも対応できず困りつづけました。

(広島県・医療法人永和会下永病院・泊 寛仁)

   

第4話 食べないなら私がいただきます

 

同僚が,ほかの病院で体験した出来事です。その病院のある看護師が受け持った患者様は保護室を使用しており,被害妄想が強く,食事をほとんどとらずにいたそうです。担当看護師はいろいろな手を考え,説明をしたそうです。チーム内では「もう拘束をして,点滴をしなければならない」という意見が出たそうですが,担当看護師はどうしても食べてほしいと,私の同僚にアドバイスを求めました。そこで,同僚がしたアドバイスとは「患者様の前でその食事を食べてしまう」という,私にとっては考えられないものでした。
しかし,その担当看護師は食べてほしいという一心から,その患者様が拒否した食事を「食べないなら私がいただきます」と目の前で全部食べてしまったそうです。その患者様は唖然としていたそうですが,次の食事からは「食べられては困る」といった様子で食事を食べるようになったそうです。
そのときは,すごいアドバイスをするなと笑っていましたが,私自身も妄想から食事をとらない患者様を受け持った際にその患者様に「(食事に)毒が入っている。お前,食べてみろ」と言われ,その話を思い出し,患者様の食事を2割ほど食べてみました。すると,安心したのかわかりませんが,突然「食べる」と言いだし,新しく用意した食事を食べたことがありました。
患者様の食事を看護師が目の前で食べることなど,教科書や学校では絶対に教えてはいない,また臨床でもあり得ないことだと思います。しかし,精神科看護の中では時として,安心感を与えるために有効な方法ではないでしょうか。

(神奈川県・元医療法人団朋友会けやきの森病院・村上克美)

             

第3話 こっち,こっちですよ

私は単科の精神科病院の慢性期の療養病棟で勤務している精神科認定看護師です。最近になって認知症の周辺症状が出現しはじめた統合失調症の男性患者さんを受け持ちました。彼は比較的安定した生活を送っていましたが,ある日を境に「お風呂入ったから入りません!」と入浴を拒否することが多くなりました。清潔行為も自分でできなくなり一部介助が必要になってきました。彼がそのような訴えをすることはまれで,スタッフは困惑していました。
どのように説得しても彼は大声で「入らねえ! この!」と拒否。そこで私はとっさに「少し待って下さい!」と時間を置きました。数分後,数メートル離れた所から全身で両手を振りながら「こっち,こっちですよ」というジェスチャーを彼に伝えました。彼は「何かある」と思ったのか,私のほうに向かって来きました。私はそのまま浴室方向に向かいながら彼を誘導し,浴室に入りました。
「無理せず患者さんに入らない理由を聞き,誘導する」という精神科看護の基本的な,教科書的な説明があります。また,誘導方法についても患者さんの病状により方法はさまざまだと思います。それに照らしあわせると私の誘導方法は間違ってるかもしれませ。しかし,理屈で説明するよりも,私は「患者さんの目標印」としてこっちに来ていただけるよう誘導するという単純なことが,入浴の誘導方法としては効果的なケアに結び付くかもしれない。そんな看護技術もあるかな? と,思わされた一件でした。

(福島県・医療法人湖山荘福島松ヶ丘病院・渡邉竜二)

           

第2話 Aさんは,どうしたいんですか?

 

5年ほど前に勤務していた病院での出来事です。男性開放病棟(社会復帰病棟)の配属で,その日は早出勤務でした。ユニフォームに着替え,病棟に入ると朝食の準備にすぐ入りました。 朝のあいさつと朝食への誘導をしながら各病室を順にまわっていたとき,男性スタッフからSOSが出されました。誘導されるままに病室へ行くと,男性患者様(以下,Aさん)が全裸でベッドサイドに立っていました。 
スタッフから状況の説明を受けると,朝食の時間なので食堂に行くように呼びかけたところ拒否され,さらに誘導を試みると緊張が高まり,「いやだ! ばか!」と怒鳴りながら,服を脱ぎだしたということでした。交渉役を変わり,私が声をかけようとすると,「ばか!」と怒鳴り,まったくこちらの話を聞こうとしません。朝一番でこのような場面に遭うとこちらも穏やかではありません。もう一度「朝食の時間なので食堂に行きましょう」と呼びかけてみましたが,状況に変化はありませんでした。一方的に興奮し怒鳴りつづけるAさんに「Aさんは,どうしたいんですか?」と問いかけてみました。その反応は「……え?」というものでした。短い沈黙の後,「Aさんがしたいようにしてみたらどうですか?」と伝え,私は退室しました。しかし,思いつくままに言った言葉がとても気になります。 興奮するAさんを1人病室に残したことが不安で,近くで見守ることにしました。それから10分ほど後,きちんと服を着て食堂へ向かうAさんがいました。何事もなかったように,いつも通り朝食を済ませ病棟でくつろぐAさん。その日1日,普段と変わらずあいさつをし,会話をして過ごしました。 なぜ,Aさんが興奮したのか,そのときの対応は適切だったのか,いまでも時々思い出し,考えることがあります。自己決定にそった援助を心がけていますが,全裸で興奮するAさんを病室に1人にしたことは適切か否かといえば,不適切だったと思います。ただ,そのときの結果はAさんに不利益は生じず,われわれの目的も達成できました。本能で動いたことが,効を奏した事例でした。

 

(福島県・医療法人慈心会村上病院・小成祐介)

 

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