特集にあたって

医療法人社団翠会成増厚生病院 榊 明彦

 「セルフケア」には「健康の危機に気づき,自分で自分の健康を管理する」「自分のために実行する」という意味が込められている。しかし,精神科病棟で長く療養生活を送ってきた人には,健康のために,自分のためにといっても,それは簡単なことではない。しかも退院が現実味を帯びてくると,多少なりとも地域生活への不安感や空漠とした孤独感を抱えることになるだろう。そう考えると,「やらなきゃいけないとは思うけど……」という患者さんの言葉が妙にしんみりと心に響く……。
  臨床看護師は,このセルフケアのアセスメント,そして見直しに力を注いでいる。たとえば,食事の制限や清潔の保持,内服薬や金銭の管理,精神症状の再燃の自覚とSOSの発信。それらを可能にすべく,患者個人の知識や生活技能,物事への価値観や習慣などを理解して,粘り強くかかわりを続けているのである。
  今回の特集では,セルフケアを支えるための取り組みを事例で綴った。セルフケアの向上に真摯に向きあう看護師たちのかかわり方や想い,そして患者さんの残存した力を信じる姿勢。それぞれの事例からは,セルフケアを動機づける「患者さんのニーズを大切にしたコミュニケーションの実践」や「チームで支えることの意味」を読み取ることができるだろう。