特集にあたって

公立学校共済組合 関東中央病院 佐藤恵美子

 先日,ある患者の問題行動をテーマとした,医師も含めた話しあいが行われた。倫理的な側面も多く含まれていたため,看護師がそれぞれ自分の看護について思いを巡らすことになった。そのとき,1人の医師が「そもそも私たちは精神科のプロとして治療をしていると思うのだけど」と言った。患者の訴えや表面に現れた行動だけに焦点が当たっていて,しかも話が煮詰まっているときに,この一言はかなり痛い。つまり,“医療者としての原点に戻れ”ということを示唆していたのだ。
 私たち看護師は患者の訴えを受け止め,その背景にあるものをとらえようとする。また患者の行動や状態を観察し,専門的知識をもとにその状態を把握し,なぜそのような行動をとり,そうした状態になっているのかを理解しようとする。しかしその過程で,医療的な判断よりも,看護師の個人的な思い込みや経験的な判断が優位に立ち過ぎると,適切な医療を提供することができなくなる状況もあるのではないか。
 今回の特集では,倫理というテーマをもとに各執筆者が自分の看護と向きあっている。自分の判断や行動がプロ(専門職)として適切か,精神医療に携わる看護師としての思考過程がしっかりあるのか,それぞれの立場から振り返り,何かを見出そうとする過程が綴られている。その1つ1つの振り返りが精神科看護の専門性を高め,精神疾患に対する理解を深める。その積み重ねが倫理観を育てる糧となるのかもしれない。