特集にあたって

財団法人積善会曽我病院 渡辺勝次

 世界に類をみない速度で少子・高齢化が進行する日本。高齢者をめぐる医療・福祉体制の整備は国が果たすべき急務として議論がなされている。一方で,わが国の精神科医療においても,入院患者の高齢化,また認知症患者の増加などが,向きあうべき問題としていままさに直面化しているといえる。
  老年期ケアにおけるジレンマや葛藤は,多義にわたる。家族からの拒否,円滑にはかれない施設への退院・他科への転院,奔走する臨床現場のなかでやむなく行われる行動制限,そして患者さんの先に見え隠れする終末期の問題など。乗り越え困難とも思えてしまう障壁を前に,われわれ精神科看護者は疲弊し,時に希望を見失ってしまうこともある。
  今回の特集では「いまそこにある葛藤―見えてきた老年期ケアの課題」と題し,先のような老年期ケアの現実をめぐる葛藤やジレンマについて取り上げた。各稿,すべてがジレンマや葛藤を乗り越えるための方策を提示しているわけではないので,読まれた方の中には戸惑う方もおられるかもしれない。しかし,まずは「いまそこにある葛藤」から目を背けずに見据えることが必要なのではないか,と思う。個々の患者とのかかわりのなかで,苦悶しながらも思考を重ねた先に,過酷な臨床現場に実りをもたらす方策が見つかるのではないかと信じている。そして,多くの精神科看護者が各地で同じジレンマや葛藤と戦っている姿から,老年期ケアの現場に臨むための英気を養っていただけたら幸いである。