特集にあたって 医療法人社団翠会成増厚生病院 榊 明彦
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私が精神科病院に就職したころ,患者さんたちは,鈍色の壁に覆われた古色蒼然とした畳の部屋で起居をともにしていた。彼らはゆったりとした時間の中で安逸に過ごしているように見えたが,実は現実感の失調をくり返していた。そのつらい症状は,コミュニケーションに弊害を起こし,ときに激しい喧嘩をまねく。ところが一定の時間が経つと,何事もなかったかのように会話をはじめ,物々交換をしてから約束ごとを交わす。そしてこれまでどおりの生活に戻る。看護師たちはさしてためらうこともなく,畳の上に腰を下ろして彼らの行動を一喜一憂して見守り,そして生活の流れに加わった。そんな時代だった……。 |