編集こぼれ話

 全国的に精神科病院の改築,新築ラッシュが続いています。時代の要請に対応しながら,あらたに病棟のアメニティやそのあり方が見直される時期にきているといえます。
  精神科医療では空間そのものが治療的意味をもつ,ということがしばしば言われてきました。安心・安楽できる「環境」を提供すること,これは精神科医療の基本といえるかと思いますので,空間の「治療的意味」についてはスムーズに理解できる方も多いことと思います。本特集も当初,先の改築ラッシュを受け,あらためて精神科病棟の空間的意味を考え直すという方向で企画を進めていました。しかし,企画を進めていくなかで,はたして「空間」とは単純に物理的空間のみをさすのか,という問いが頭の中を占めるようになってきました。むしろ,考えるべきは,その空間をとりまく「雰囲気」や「空間」を創りだしている医療者の存在そのもの,つまり人的環境に主眼を置くべきなのではないか(病棟の物理空間がもたらす治療的効果についても,今後とりあげていくつもりです)。
  病棟に勤務する医療者のなかで,圧倒的な人員数を誇るのは言うまでもなく看護職者です。そうであるとすれば,病棟内の空間,雰囲気,文化を大きく規定している要素もまた,看護職者の存在であるといえるのではないでしょうか。しかし,こうした「治療環境としての看護師」という視点は,これまであまり自覚的に議論されてきませんでした(その背景については,本特集の武井麻子先生へのインタビューをご参照ください)。看護研究では,“ある特定の意図をもったかかわり”が患者さんにもたらす効果について多くの検討がなされています。しかし,個々の看護師の存在や日常的な振る舞いが,病棟内にどのような雰囲気を醸成させ,その雰囲気が患者さんにいかなる影響をもたらしているのか,という研究テーマを目にすることは極々まれです。看護師の“集団性”に関する検討も非常に少ない状況です。
  今回の特集が,看護師自身の存在や振る舞いがいかなる「環境」を創りだし,影響をもたらしているのか,いまいちど自覚的に考えるきっかけになればと思っています。あまりに自明で地味なテーマかもしれませんが,精神科看護のエッセンスを考えるうえで“非常に”重要なテーマであると思います。是非,お手にとっていただき,最後までお付きあいいただけましたら幸いです。