編集こぼれ話

 取材などで当事者にお話をうかがってきて,処方された薬を「好んで飲んでいる」という人に会ったことがありません(一部,薬物依存傾向にある人を除いて)。逆に「まったく薬を飲んでいない」という人に会ったこともありませんが,みなさん,しぶしぶ飲んでいる,というところです。薬の効果をまったく感じていないわけでもない。でもさまざまな副作用があって,毎日飲むのはつらい。それでも症状悪化を防ぐため,もう入院はしたくないから,と自分に言い聞かせて,我慢して飲んでいる,という印象です。
  ご家族や医療者は,みなさん「よくなってほしい」と思っています。だから「薬は欠かさずに飲んでほしい」「飲ませなければならない」とがんばるのも,患者さんを思ってのこと。でもご本人が飲みたくないというのならばそれは無理強いとなり,その患者さんを思う気持ちも,届かないかもしれない……。
  いま精神科医療において,薬物療法がその柱として必要不可欠な存在であることは,多くの方が認めるところだと思います。しかし,たとえ急性期状態にあろうとも,患者さんには薬を拒否する権利があります。緊急避難として強制的な医療が認められている精神科医療だからこそ,「飲みたくない」という患者さんの意思や権利を重んじることを,あらためて考える必要があるのではないか。この特集は,そのような思いで企画しました。
  薬を飲みたくない理由は,人によってさまざま。そもそも,自分の飲んでいる薬のことがわからない,という方にはしっかりとした説明を。副作用がつらい,生活していくうえで副作用が出ては困る時間帯がある,というならよりよい処方を模索し,用法・用量の調整を。「飲んでもらう」のではなく「飲める」環境をまわりの人が構築できれば,患者さんも自然と,薬を生活の一部として受け入れてくれるのではないでしょうか。そしてそのような調整-今回のタイトルである「『当事者主体』の服薬支援」をしようと思えば,患者さんだけでなくご家族,多職種とも話しあい,協働する必要があるでしょう。服薬支援を少し見直すことで,多くの方との相互理解が深まるかもしれません。