特集にあたって

医療法人社団新新会多摩あおば病院 坂田三允

 「1人の人」としての人間は,自分を取り巻くさまざまな環境の中で生きている。心を病むということは,その環境とのかかわりがうまくいかなくなっているということでもある。看護師は患者とともに活動することを通して,いきいきとその人が望む生活を送ることができるように支援する役割を担っている。患者のペースに合わせて日常生活を補うとともに,患者の健康な側面を十分に活かすことができるように配慮する。あるいは,自分の力で歩きはじめた患者を支え,患者の自立への新しい試みを励ましていく。このような視点で看護をとらえたとき,その人のそれまでの生活に目を向け,その人はどういう人なのかをイメージしていくことはとても重要なことと思われる。
  しかし,最近の精神科看護の動向を見ていると,急性期のあわただしさのなかでアウトカムだけが問題にされ,ともすれば目新しい技法にばかり焦点があてられて,個人の特性や価値観を尊重するという姿勢がないがしろにされているように思えなくもない。その人の現在のありようは,過去の生き方に大きく影響を受ける。症状や問題行動にばかり着目せず,いま一度,患者の気持ちに寄り添い,患者の経験世界を理解することを考えてみたい。そのような思いで今回は「ライフヒストリー」に焦点をあて,その意味と意義をあらためて見直してみることとした。