編集こぼれ話

 これまで,117名の患者さんにインタビューをしてきた弊誌の名物コーナー『写真館』。読み返してみると,そこには個別的で,実に多様な「物語」があることにあらためて気づかされます。
  「入院中心から地域での支援へ」というわが国の精神科医療の方針は,急速にとはいえませんが,たしかにその成果をあげてきてはいます。しかし,その一方で,変わることなく半世紀近く病院で(入院)生活を送られている患者さんがいることも事実です。精神科病院は,数多の「時間」「物語」が堆積する場所,そういえるのではないでしょうか。そして,その場所で看護師のみなさんは患者さんと多くの時間をともにし,微視的な「物語」に耳を傾けてこられたことと思います。それは素朴ながらも,とても重要な,精神科看護の原点ともいえるような行為ではなかったかと思います。
  しかし,本特集の巻頭言において坂田三允先生が述べられているように,近年のあわただしい精神科看護の現場・動向のなかで,この無数の「物語」(ライフヒストリー)に耳を傾けるという行為や姿勢は,徐々に重きを置かれなくなってしまったのかもしれない,そのような印象を正直なところ覚えたことがあります。患者さんのライフヒストリーに目を向けながら時間をともにすること,そして,その経験世界を理解しようとすること,そんな看護の原点といえる営為についてあらためて考えてみたい。そのような思いから,本特集を企画しました。「看護とは何か」「患者さんが病むことの意味とは何か」という大きすぎる問いの前で,みなさんとともに考えることができましたら幸いです。