特集にあたって

日本赤十字看護大学 鷹野朋実

 “精神科実習”と聞いて思い出すのは,臨床での実習指導者時代におきた1つの出来事である。実習初日,実習生数名を連れて病棟を案内していたとき,廊下で入院数十年になる女性患者Aさんと行き会った。「Aさん,今日から実習生が来たのでよろしく」と声をかけると,「どうしたの? 私のこと,“Aさん”なんて呼んじゃって。いつもA,Aって呼び捨てなのに」と返してきた。晴天の霹靂だった。「呼び捨てにしたことなんて,ないでしょう?」と慌てると,Aさんは体をかばう体勢をとり,「ごめんなさい,謝るからぶたないで」ときた。実習生の前で,私はすっかり暴言・暴力看護師である。彼らが去った後,Aさんは「あんな冗談,本気にする学生はただの馬鹿よ」と笑った。Aさんの悪戯ともとれる一件だが,たぶん,実習生の前で無意識に“よそ行き顔”をしていた私を皮肉ったのだろう。実習は,スタッフや患者にもさまざまな体験や気づきをもたらす。
  今回の特集では,「学校は臨地実習をどのように位置づけているのか」という視点から精神科臨地実習をとらえ直すことに挑戦した。3つの大学の教員に,実習で精神科看護の何を学び,体験してほしいと考えているのか,実習の目的や方法を示していただいた。さらに,その実習の体験者,病院で彼らのサポートをしている臨床指導者にも執筆していただいた。この特集を契機に,臨地実習について一緒に考えてみませんか?