編集こぼれ話

 自分自身の学生時代を思い返すと,特にこれといって胸を張れるようなこともなく,ただただ時間を持て余してばかりで,映画を観たり本を読む以外にやることもない,自堕落な生活を送っていたと思います。ただ,ではあの時期が漠然と過ぎ去っただけの無意味な時間だったかと問われれば,一概にそうとは言いきれない大切な何かを,あの時期に得た気がします。
  慌ただしい日常の中で,考えをめぐらす対象やそのプロセスはいつしか現実原則にばかり絡めとられていきます。現実(原則)にそった思考が求められる場面は多々ありますし,その重要さを否定するわけではもちろんありません。ですが,時に膠着した現実や問題を前に,一歩身をひいて,あるいは別の位相で物事を考える必要がでてくることもまた事実ではないでしょうか。そのための術や視点を自分なりに身につけるための時間,それこそが「学生」に与えられた特権なのではないかと思っています。近年,就職予備校化する高等教育の現状の中で,この学生の特権は失われつつありますが(そんな流暢なことをいっている場合ではないという時勢にも,もちろん関係していますが……)。
  今回の特集では精神科看護の「臨地実習」に焦点をあてました。特徴的な試みを展開している3校の実習方法をとりあげ,その背景にある目的,つまり2週間という限られた時間のなかで学生に「“何を”いちばんに学んでほしいと思っているのか」を明らかにしていただきました。一見すると,看護教育に直接携わっていない読者の方にとっては関係のない話のように思えるかもしれません。理念的すぎるという批判もあるでしょう。ですが,その取り組みについて1つ1つ丹念に考えて行くと,そこには精神科看護を構成する重要なエッセンスが詰まっていることに気づかされます。現実原則から一歩距離を置き,「精神科看護とは何か」「精神科看護のエッセンスとはなんだろうか」という非常に本質的な問いを考える1つのきっかけになることは確かです。
  本特集は,教育関係者よりも,むしろ日々現場で奮闘する臨床看護師の方々にお手にとっていただきたいと思い企画しました。学生時代を思い返しながら,もう一度「精神科看護のエッセンス」について考えてみませんか?