特集にあたって

財団法人星総合病院 星ヶ丘病院 遠藤 太

 退院支援に関する事業により地域移行を果たしてきた患者さんたちの中には,退院など想像すらできなかった方もいる。しかもその患者さんたちは「すぐに戻ってきてしまうだろうな」という大方の予想に反して力強く生きて(活きて)いる。
  そんな患者さんたちの話を聞くにつけ,「地域で生活することはこんなにもあたりまえのことだったのだ」と考えをあらためさせられるとともに,医療チームと福祉チームとの協働が織りなすマジックに考えを巡らせられる。私たち看護者は「地域で生活ができそうにないから退院はムリだろう」と,ある意味での親心で患者さんを抱え込むが,ストレングスに焦点を当てる他職種との出会いでエンパワメントされ,それが驚きの退院を引き出していったのではないか。
  今月号の特集は,2012年4月に迫った改正障害者自立支援法の施行により,地域移行支援はどう変化するか,制度はいかに活用可能かについてさまざまな視点から模索し,それに適応するための課題共有を図ろうとするものである。特に病棟に勤務する看護者にとって医療・福祉制度を十分に理解することは簡単ではないが,本特集を通して,当事者支援のためのタイヤの両輪である福祉・医療の相互作用がさらに深まり,さらなる「あたりまえの」地域生活が実現していくのではないだろうかと考えている。