特集にあたって

医療法人社団新新会多摩あおば病院 坂田三允

 「医療はサービス業である」と盛んにいわれ,「接遇」ということも頻繁に問題にされることが多くなった。それは,度重なる医療事故やその対処方法,クレーマーと呼ばれるような人々の出現とも決して無関係ではないだろう。また,外部からの電話に対して,内部の人間に敬語を使用するなど「病院の常識,世間の非常識」といわれるような病院に特有の慣習や,インフォームド・コンセントに代表される医療従事者と患者との関係の変化に深く関連することも考えられる。
  多くの病院で,接遇委員会が設置されて接遇マニュアルや標語なるものが作成されたり,患者さんが患者様になったり,接遇の専門家といわれる方々を招いたりするようになった。それはそれで,意味のあることには違いない。患者「様」と呼ぶことで述語は丁寧語になるであろうし,接遇マニュアルにそって対応することによって,常識からは外れないですむであろう。
  だが,ほんとうにそれだけでよいのだろうか。ことに精神科では,入院そのものをはじめとして,当事者の意思に反した行為が行われることがあり,私たちにそのような気持ちがなくても,結果としてその方の人権を侵害してしまっていることもある。そのような中で,精神科における接遇とは何かということにあらためて向きあう手がかりを提供できればと考え,いろいろな立場の方からご意見をいただいた。