特集にあたって

帝京大学医療技術学部 遠藤 太

 異種格闘技戦の始まりは,1976年のアントニオ猪木VSモハメド・アリの一戦かららしい。当時小学生だった筆者はおぼろげに,猪木がリングに寝転びアリキックを放っているシーンを覚えている。猪木としては「世界最強のプロレス」を巷に示すための試合だったのだろうが,正直あまり格好良いものではなかった。
  現在,プロスポーツ界やビジネス界などでも異業種交流が盛んだ。その目的は,①他流試合を通した視野の拡大,②触発による学習・向上意欲の鼓舞,③知的人脈の形成,だそうである。
  プロの世界では,みずからの専門性をとことん追求し,社会に貢献することが使命ではある。しかし,一方でそこに拘泥しすぎると専門分化(細分化)が進み,全体性を見失ってしまう。看護の専門性は,生物体・個別性・生活体・生命力(回復過程)をもつ人間の“全体性”に働きかけることにある。その前提には,他の学問領域の理論や概念に裏打ちされた「科学的な思考過程」が必要となるだろう。本特集は,まさに≪異種交流戦≫と言っていいが,各々の立場から新鮮でクリティカルな視点を提供してくれる。猪木とアリの試合は,膠着状態のまま不完全燃焼に終ったが,他の学問領域と看護の出会いは,精神看護の専門性を高めるためのホットな礎になるだろう。