特集にあたって

日本赤十字看護大学 鷹野朋実

 童話「ムーミン」に,姿が見えない少女ニンニが登場する。意地悪な伯母に邪険に育てられていた彼女は,自分の感情を失い,それと同時に身体の輪郭も失い,他者から見えない存在になってしまっていた。そんなニンニがムーミン家で暮らしはじめた。ある日,ムーミンパパが,ニンニに温かい愛情を注いでくれていたムーミンママを海に突き落とすふりをしたとき,ニンニは激しい怒りからとっさにパパに噛みついた。その瞬間,ニンニは失っていた感情と身体の輪郭を一気に取り戻すのだ。
  今回は,看護者としての自分自身の「怒り」に向きあう特集を組んでみた。看護の現場において,心理的アセスメントという名の下に患者の怒りには注目するが,自分自身の中に湧き起こってくる怒りからは目を背けがちだ。そこには,患者相手に怒りを感じる自分自身への自己嫌悪や恥ずかしさ,プロ失格だという思いなどがある。しかし,患者の怒りを取り扱うのと同様,看護者の怒りを取り扱うことには治療的な意味がある。
  また,「怒り」という自分自身の感情に気づかず,無意識のうちに抑圧してしまうことで,首の痛みや頭痛,胃腸障害など身体的不調を招くとも言われている。ニンニのように自分自身を失わず,健康を守るためにも,「怒り」に目を向けることは必要不可欠なのかもしれない。