特集にあたって

医療法人社団翠会成増厚生病院 榊 明彦

 「子どもは親の背中を見て育つ」という言葉,いみじくも言い当てていると思う。またその言葉はプラトンの「子供には批判よりも手本が必要である」という箴言を連想させる。言葉の連鎖はさらに続き,詩人ワーズワースの「子供は大人の父親である」という言葉も浮かんでくる。大人は子どもから教えられることや学ばされることが数多くあるという意味だろうか。この言葉も奥深さを感じる。また違った視点で芥川龍之介は,親と子,双方の目線ともとれる言い方でこう言っている。「人生の悲劇の第一幕は,親子となったことに始まっている」。なんとも切なく落ち込む響きだ。
  私たちは病院の面会室などで,親子にしかわからない決まりごとのようなやりとりを耳にすることがある。時にその親子の思いは,私たちの心を揺らし,言葉を詰まらせる。しかしそれはことによると,患者さんの生育や生活環境をより正しく理解するための,とても貴重な一場面であったりするものである。
  現在,私は2児の父親である。20歳ごろに読んだ有島武郎の小説が親になるということへの責任感を芽生えさせた。「お前たちをどんなに深く愛したものがこの世にいるか,あるいはいたかという事実は,永久にお前たちに必要なものだ」。