特集にあたって

日本赤十字看護大学 鷹野朋実

 “わざ(技)”と言われて,何を思い浮かべるだろうか?
  一般的なのは,最近,世間を賑わせた柔道や,格闘技系の“技”であろう。ただし,これは「勝つために相手に仕掛ける一定の型の動作」で,看護には相手(患者)を負かすことは求められていないから,ここでは除外しよう。ほかに,“裏技”“隠れ技”といったゲーム関係の用語もすっかり市民権を得たので,これを連想した人もいるだろう。だが,こちらは“技”というよりも,意外な発想にもとづく創意工夫と言えそうだ。
  辞書で“技”を調べると,同義語として“コツ(骨)”が出てくる。「節約するコツ」とかいうときの,あの“コツ”だ。
  さらに,それと並んで“かんどころ(勘所)”とある。“勘所”は,三味線などの弦楽器の演奏時,音の高さ,上下の調節をするために指で押さえる位置のことを指す。弦は,温度や湿度の変化などで伸び縮みするので,さまざまなコンディションを考慮しつつ,その位置を上手く加減できるかどうかで,演奏の出来映えは違ってくる。
  看護の現場でも,そのときの患者の様子,周囲の状況を見つつ,勘所を上手く押さえて対応できることが,臨床の“技”なのかもしれない。臨床には,さまざまな“技”と,その技をもつ“達人”で溢れている。それを発見し,“技を盗む”ことで,私たちの臨床力は間違いなく向上する。