特集にあたって

帝京大学医療技術学部看護学科 遠藤 太

 2013(平成25)年4月より,これまでの「がん,脳卒中,急性心筋梗塞,糖尿病」に「精神疾患」と「在宅医療」が加わった,新たな医療連携体制「5疾病・5事業及び在宅医療」が始まった。これまでもさまざまな側面から精神障がい者の方の地域生活への移行支援の取り組みが進められ,一定の効果を示してきたが,このたびの医療計画はこうした流れを強く後押しするものとなるだろう。しかし「精神疾患」と「在宅医療」が注目される一方で,長年にわたってその是正ついて議論され,いまも渦中の問題がある。それが精神疾患への偏見・差別,それに伴うスティグマの問題だ。
  社会に偏在する精神疾患への不理解に対しては,多くの先達がそれらを乗り越えるための実践や制度確立を模索してきた。そうした努力は,現代において精神障がい者が地域で安心・安全に暮らせる下地となってきたが,なんらかの事件・事故に際して精神疾患との関連を示唆する安直な論評を聞くことはいまだ絶えない。
  そこで本特集では,地道だが着実に実を結びつつある,精神科医療に従事する方々による社会啓発活動について紹介する。各々の活動が精神障がい者の安定した社会生活や,市民のメンタルヘルスに関する知識の向上に寄与していることは本特集で紹介するとおりだが,臨床家が実践を基礎に精神疾患について社会に向けて啓発することは,とりもなおさず,臨床家が日々の実践を振り返るきっかけともなっていることが印象的だ。