特集にあたって

日本赤十字看護大学 鷹野朋実

 「自ら育つものを育たせようとする心。それが育ての心である」。
  これは,幼児教育の発展に尽力した児童心理学者,倉橋惣三(1882~1955)の言葉である。「育ての心」とは,対象(幼児)の力を信頼,敬重し,その発達の途に従い,その発達を遂げさせようとするもので,なんの強要も,無理もあってはならないという。つまり,教育は,教育者が自分の理想とする形に近づけるために,対象者に押しつけ,叩き込むような活動ではあってはならないのだ。
  昨今,精神科領域で行われている心理教育は,従来の「家族教育」「患者教育」から目覚ましく発展し,その目的や技法は多様化している。教育というと,その効果やプログラムの内容,実施方法などが注目され,それに振りまわされがちだが,心理教育においても「育ての心」のまなざしが,常に根底にあるべきであろう。
  今回の特集では,心理教育の達人のみなさまにご寄稿いただいた。すでに心理教育にかかわっている方は自分の実践を省みる機会となるだろうし,いまだ馴染みのない方には,今後,看護師として心理教育にどうかかわっていけるか,思いを巡らしていただけたら,と思う。
  「育ての心」は,相手を育てるだけではなく,その活動を通して,育てる人間も育てられていくという。「教育」が「共育」となるのだ。心理教育の場がすべて,患者,家族など参加者が,教育を提供する医療や福祉のスタッフとともにみなで育ちあう,共育の場であってほしい。