特集にあたって

特定医療法人北仁会旭山病院 南 敦司

 今月の特集では「摂食嚥下機能の基礎知識」について取り上げる。
近年,肺炎が日本人の死亡原因のなかで第3位となった。その多くは高齢者であり,特に誤嚥性肺炎は現場のケアにより予防可能であると言われる疾患である。
 精神科病院の疾患別入院患者数2位は認知症性疾患である。精神科病院では高齢者(認知症者を含む)の精神症状への治療のため,拘束や薬物による鎮静を行うことがある。これらの治療は身体的衰退期にある高齢者に対し,過度の身体的侵襲を伴う。実際,認知症周辺症状で入院した患者が数週間後,肺炎を合併する症例は後を絶たない。筆者はこの事実についてなんとか対策を取りたいと考えていたが,これまで有効な対策は見いだせずにいた。それはひとえに正しい知識と技術が不足しているからに他ならない。
 高齢者は嚥下機能が衰退していく過程にあり,異物が気道内に入ることにより「むせ込み」現象を起こしやすい。「むせ込み」現象は成年期の健常者であれば咳嗽反射による異物除去が可能だが,高齢者では誤嚥性肺炎の直接的要因となることがある。
 摂食嚥下訓練は言語聴覚士の専門分野だが,実際に臨床現場で食事介助や日常のケアを行うのは看護スタッフである。これらの臨床現場のケア技術向上は精神科病院において取り組むべき急務である。これからますます増加する高齢者に対応するためにも,「摂食嚥下機能の基礎知識」を学ぶ意義は大きいと考える。