特集にあたって

南 敦司(医療法人北仁会旭山病院)

 今回の特集は「患者-看護者の距離」がテーマである。
 患者-看護者関係は時代を問わず,これまで多くの看護理論のなかで述べられてきた。それは看護を行う看護者も「人間」であり,看護を受ける対象者である患者もまた「人間」である以上,その関係を論ずることは常に必然であったからだろう。
 思えば,私が精神科看護に従事しはじめたころ,この「患者との距離感」がうまく掴めず悩むことが多かったように記憶している。「巻き込まれ」を起こしてしまい,先輩からたしなめられることや,反応の乏しい患者とのかかわりが苦手で接触を避けることもあった。
 “精神科看護の達人”といわれる方たちは,押しなべて「患者との距離感」をうまく保ちながらケアを深めている。それは精神科看護がかつて大切にしてきた情緒的交流であり,経験から積み上げられる「知の結晶」のようにも見えた。
 現在の精神科医療では,急性期治療病棟の稼働により,患者の回復はクリティカルパスや疾患教育プログラムのなかで進んでいく印象が否めない。そのなかで患者―看護者間には以前のような情緒的交流が乏しくなり,どこか冷めた印象を受けることが増えてきている。
 いま一度「患者-看護者の距離」を考えてみることは,機能分化の進んだ精神科医療に通底する共通項を認識するために意義のあることだと思う。