特集にあたって

編集部

 今回の特集記事の中で何度も触れられているように,個々の看護師が内に抱える倫理にはそれぞれの価値観が強く反映されている。そのため,話しあいに折りあいや妥協点を見つけるのは困難な道のりであり,時に激しい感情的な対立すらも引き起こすことがある。ここで必要とされるのが,焦点となっている問題を相対化する作業である。幸いにも看護においては諸々の倫理綱領や倫理原則など,倫理問題を客観的にとらえるためのツールが存在する。それらのツールを活用には,相応の知識・技術が求められるのは紹介する記事にあるとおりだが,話しあいの調整役に求められるのは知識・技術だけではない。個々の看護師の価値観に「間」たち,個々の価値観が共通して根ざすであろうところ――つまり「よりよい看護を提供したい」という看護師であればみながもっている基本的な信念を前景化させ,話しあいを建設的なものへと導くための,いうなれば「配慮の態度」が重要となる。
 今回の特集のタイトルは「倫理問題を一歩前に進めるために」とした。これは冒頭述べたことを理由とする,倫理問題について話しあうことの難しさや不全感をいかに乗り越えていくかを表現したものだが,ただ今回の特集内容を読み進めていけば,「一歩前に進む」ということが,「精神科看護」の本義に立ち返るということと同義であることに気づかれることと思う。