特集にあたって

編集部

 連載「クローズアップ」の取材では患者さんの病室にお邪魔することがある。ベッドまわりを彩る私物からは,初めて会ったその方の人となりが滲む。同時に,入院という他者との共同生活において私物で身のまわりを「固める」というのは,それこそ物理的・精神的な私的領域の確保への切実な意思の表れなのかもしれないとも感じる。しかし,私物をリスクマネジメントというフィルターに通して眺めれば,それらは事故に結びつきかねない「危険物」へと変じ,制限の対象となる。いわば「自分で自分のモノを所有する自由」と外的な強制力としての制限。行動制限を想起するまでもなく,このことは精神科看護の難所ではないか。またその難所にこそ,精神科看護のエッセンスが包含されているのではないか。そのような意図で今回の特集を企画した。
 物品制限の細目に関して,それらが制限されている理由は歴史的に遡って説明されることが多い。しかもルールは一度決まると,なかなか変化しない。まさに病棟に根づいた文化,あるいは端的に「日常」といえるだろう。「日常」はそれを脅かす違和感を覆い尽くす。それでもなお果敢に口にされる(ちょうど座談会で述べられているような)「どうもおかしい」という呟きは,「日常」に小さなひび割れを入れる。変化の端緒としてのひび割れ。今回の特集が,読者のみなさまの病棟の「物品制限のルール」を見直す機会(ひび割れ)となれば幸いである。