特集にあたって

編集部

 トラウマインフォームドケア(trauma informed care)とは,トラウマを熟知した(informed)うえで行うケアであり,近年,アメリカを中心に注目を集めている。では,ここでいう「トラウマを熟知する」とはどのようなことなのだろうか。1つには「ケアの対象となる人の多くがこれまでの人生の中でトラウマ的な体験を経てきているのではないか」という視点をもつことだろう。ただトラウマは,当事者でなければわからないとても繊細なものであり,たとえ医療者であってもその全体像を把握することは難しい。そのため,治療やケアにおけるかかわりが,まったく意図せず当事者のトラウマを再び思い出させ,“再トラウマ体験”として心に傷を負わせてしまうことがある。本稿で紹介されているSanctuary Harm(神聖な場所での危害)とはそのことをさしている。そして精神科病院においては,こうした“再トラウマ体験”へとつながる契機は決して少なくはないため,そのことを十分に意識してケアを行う必要があるのだ。
 ただトラウマインフォームドケアというかかわりは1人では行うことはできない。多職種が連携した組織的なかかわりはもちろん,家族など当事者にかかわるすべての人たちとの“協働”が必要不可欠なのである。現在,本邦ではこれらに対する理解が十分に浸透しているとはいえず,今後その展開が待たれる状況である。本特集がトラウマインフォームドケアを知るきっかけとなれば幸いである。