特集にあたって

編集部

 精神疾患をもつ患者においては,抗精神病薬の副作用や精神症状の悪化によるセルフケアレベルの低下により,口腔機能に支障をきたすことが少なくないため,なんらかの継続的なケアが必要となる。また,精神科病院に入院する患者の高齢化が顕著な現状において,高齢化による摂食嚥下機能の低下は,肺炎をはじめ重篤な疾患につながるため,特別の配慮が欠かせない。
 とはいえ,精神科医療における口腔ケアの推進は「ケアの方法に対する知識不足」「慢性的な忙しさ」「精神障がい者の特徴を踏まえたケア技術不足」などの障壁が存在することも事実だ。しかし,精神科看護であるからこそ,より口腔ケアに注力すべきであるともいえる。
 「食べること」は単に栄養の摂取にとどまらない(いわゆる個食/孤食の問題はおいておく)。誰かとテーブルを囲むという行為は自然とコミュニケーションを喚起し,社会性を帯びる(このことは当然,入院患者が摂る食事においても変わらない)。「食べること」のもつこうした特性を活用する――あるいはそこにケアの手がかりを見出す――形で精神科看護を展開していくという方法はありうるだろう。少なくともそれまで意識していなかった患者の別の側面を,「食べること」を媒介にして見出すことは可能なはずだ。こうした意味を含めて,今回の特集が精神疾患をもつ人の食べる機能に対する精神科看護師の役割をあらためて見直す機会となれば幸いと考える。