特集にあたって

編集部

 対象者に共感し,受容することで信頼を得るという試みは,精神科看護の基本精神といえる。こうした信頼関係構築に向けて,看護師が対象者に自己開示を用いることがある。そして自己開示とは,自分がどういう人間であるかをあらわにする行為であるため,そこにはとりもなおさず,「看護服を着ていない『私』」が介在する。
 看護師が「私」的情報を開示する際には,みずからが開示する情報の階層への注意が求められる。これは「私の趣味という情報」と,「私の困難な経験」という情報では,開示する側される側,双方にかかる負荷が異なると考えられるためだ。もしこの観点を欠いてしまえば,自己開示に伴って対象者から拒絶されたり,過度の依存対象となったりしかねない。こうした意味で,自己開示には,人間関係が本来もつ脆弱性を踏まえた慎重さが必要だ。
 ただ,「看護服を着ていない『私』」をいかに援助関係の構築に活用できるか,という観点は精神科看護の専門性の1つである。ゆえに対象者との関係調整には,「看護師」と「私」という自己の調整が要請される,とも言いかえられる。このように,自己開示とは,単なる技術論を超えた,精神科看護の専門性とは何かという問いをも射程に収める。
 本特集では,こうした問いに対して,日々の看護に取り組まれている方々の実践をもとに,具体的な看護実践に結びつけて検討していく。