編集こぼれ話

 「入院中心医療から地域での支援へ」という精神科医療をめぐる大きな転換の中で,精神科看護に求められるケアのあり方も変化してきたといえます。その中核にあるのが今回特集で取り上げた「セルフケア」という概念ではないでしょうか。セルフケアの先にあるものが,当事者の方々が「望む」地域生活であることは言うまでもありません。
 しかし,一方では長期入院によるセルフケア能力の喪失や,それに伴う地域生活への不安により,医療者・当事者がともに退院や継続的な地域生活に中々踏み出すことができないという厳しい臨床的現実もあると聞きます。退院・地域生活に向けて一歩踏み出すために必要な支援とは何かを再考すべく,本特集を企画しました。
 今回の特集では「セルフケア能力の向上に向けた支援」と「不足したセルフケア能力へのサポート」という一見正反対の視点にもとづく試みを,事例を通してご紹介しました。両者はたしかに一見対立するようにも思われますが,すべての事例を一読しますと,(当然のことながら)両者が地続きのアプローチであることがわかります。当事者の方々が望む生活を叶えるべく残存する力を最大限引き出すように支援し,しかし,それでも不足している部分があるのであれば多職種でサポートをする。病院と地域,医療者と地域支援者,それぞれの機能や役割を最大限に活かした連携のあり方がここにあるように思います。
 「セルフケア」を再考することは,当事者主体,病院・地域連携,精神科看護師(医療者)の役割,といった精神科医療の本質的にして先端的な命題について考えることでもあります。本特集がそのための一助になれば幸いです。