編集こぼれ話

 認知症を中心に,看護・介護,それぞれの現場での老年期ケアの課題がマスコミ等々でとりあげられるようになってきました。過酷な現場を支えるための体制はいまだ未整備のまま,心身ともに大きな負担だけが臨床や介護の現場,あるいは家族に課せられてしまっていると聞きます。今回の特集では,今後いっそう高齢化に拍車がかかっていくなか,精神科医療現場における老年期ケアの葛藤について取り上げました。施設,あるいは他科との連携が円滑にははかれない,また医療者自身が望まないなかで行わなければならない行動制限など……。抱えるジレンマ,葛藤の大きさを各稿からひしひしと感じさせられるばかりでした。
  また,「老い」そのものが日常的にかかわることのできない空間に追いやられているという現実もあります。多分にもれず洩れず核家族の中で育った私にとっても,「老いの世界」とはまさに未知の領域であり,老人は“畏怖”の対象であると感じることさえあります。それは,竹中星郎先生へのインタビューでもでてきましたが,個人史の中で培われてきた多面的なその人の姿が時に,自分自身が抱く「老人」のイメージを大きく引き裂く瞬間があるからではないかと思っています。裏を返せば,自分が理解可能なように「老人」に「かくあるべき」という姿や役割を無意識のうちに求めてしまっているのかもしれません。(疾患や障害のあるなしに関係なく)このあまりに大きな存在を「理解する」「共感する」とは,一体どういうことなのでしょうか。「老いの世界」,そして老年期ケアの深淵を考えさせられる,意義深い機会となりました。