特集にあたって

財団法人星総合病院 星ヶ丘病院 遠藤 太

 3.11以降,私の住む福島県では,多くの人々が県外へと避難した。プールには青藻が,公園は雑草が生い茂り,蝉の声だけが響いている。あの出来事以前には,想像もできなかったSFのようなこの光景が,「現実」だといまでもまだ完全には理解できていない。原稿を書いているいまも,遠くから地鳴りが響き大地が揺れている。震災と,それに引き続く原発の事故は私たちの生活を足元から揺さぶり,いまなお崩しつづけている。
  本特集では,日本精神科看護技術協会,日本看護協会の2つの職能団体にこれまでの支援活動を振り返っていただくとともに,今後の展望を伺った。また,岩手県,宮城県,福島県の三県で,「こころのケア」や被災地支援の「コーディネート」に尽力された方々に,再建に向けた「これまでと今後」を述べてもらった。そこからは,復興への道筋を模索しつづける「熱意と希望」を読み取ることができる。
  読み進めるうちに,「リカバリー」という言葉が思い浮かんだ。『リカバリーは治癒(cure)を意味しない。ゴールではなくプロセスである。完全な直線の過程ではない。しばしば複雑で時間のかかる過程である。希望を持つことを土台とする。われわれはたじろき,後ずさりし,取り直し,そして再出発する』。
  私たちのリカバリーへの道は,まだ始まったばかりである。この大災害を乗り越え,人生の新しい意味と目的を創り出す過程を,それぞれの歩幅で,確実に歩んでいけたらと考えている。