特集にあたって

医療法人社団新新会多摩あおば病院 坂田三允

 最近はほとんど聞かなくなったが,かつて精神科では,「名医の匙加減」が非常に重要であった。同じ診断名であっても個人に合う薬物やその量は微妙に異なる。複雑な組みあわせを何度も試みつつ患者と時間をかけて話しあい,個人にぴったりマッチする薬物を模索しつづける医師は,患者が「楽になりました」と伝えると「これが名医の匙加減だ」と本当にうれしそうだった。
 だが,名医の匙加減は難しく,結果として多剤大量使用になる場合も多かった。このところ,新しい向精神薬が次々に発売され,診療報酬による誘導とも相まって,定型の抗精神病薬から非定型抗精神病薬へのスイッチングや,減薬,単剤化が推進されている。もとより,それが患者にとってよい結果をもたらすことであるからなのだが,その過程には大きなリスクがあることもよく知られた事実である。
 そこで今回は,減薬の際に薬理的にどのようなことが起こり,どのようなリスクがあるのかという基本的な知識をもとに,現在単剤化や減量を推進されている病院での取り組みの実際や,リスクを回避するために私たちはどのようなことに注意し,多職種の人たちとどのように連携していけばよいのかについて学ぶ手がかりを特集した。