特集にあたって

医療法人社団新新会多摩あおば病院 坂田三允

 20年ほど前のことだが,看護研究発表会で会場から「研究をしている間は患者さんの調子がとてもよかったのに,研究が終わったらまた前のようになってしまったのはどうしてでしょうか」という質問の声があがった。「みなさん,研究中も研究後も同じように患者さんにかかわられたのですね」と尋ねたところ,「いいえ,研究中はみな一所懸命にかかわりましたけど,終わってからは研究前と同じようなかかわりになっています」という答えであった。
  臨床での研究について盛んに倫理的な配慮ということが言われるようになったのは,それから間もなくのことである。多くの病院に倫理委員会が設けられ,各種学会でも倫理的な配慮がなされた論文であるかどうかが厳しく問われるようになった。倫理的配慮は研究を行ううえで患者の権利を護り,治療上の不利益を防ぐうえで不可欠なものであることは言うまでもないことである。一方で,匿名性を重視するあまり,研究に深まりがなくなるのではないか,あるいは「患者の同意を得る」ことや「倫理委員会の承認を得る」ことが形骸化しているのではないかという声もある。
  そこで今回は,このような状況に疑問を投げかけるお2人の意見と,いくつかの病院における倫理委員会活動の実際を取り上げた。どのような研究をどのように行うことが患者のためになるのかをあらためて考えるための手がかりとなれば幸いである。