特集にあたって

東京医科歯科大学医学部附属病院 松岡裕美

 交通事故で片足に大きな傷を負ったAさんは,保存的治療か下肢切断かという選択を迫られていた。保存的治療をしても歩ける可能性は低く,かつ切断に比して入院期間は3倍になる。そのうえ,その過程で何か問題が起これば結局切断することになる。Aさんは,医療チームや家族と何度も情報のやりとりを行いながら,切断する意思を固めていった。
 咽頭がんのBさんは医師,妻,娘たちに咽頭全摘出を勧められながらも,「80歳を前にいまさら死んだように生きたくない」と部分切除を決定した。手術前まで妻と口論していたBさんだったが,麻酔から覚めたときは「声が出る。ありがとう……」と,妻を見ながらぽろぽろと涙を流した。いずれも,リエゾンナースとしてかかわった身体科のケースである。AさんもBさんもつらい選択を迫られており,この先もまだまだ困難に遭遇するだろうが,あがきながらの決定には誇りをもってもらいたい。
 身体科では当然のようになされる患者への情報提供だが,決定は患者任せになりがちである。一方で,精神科では病状への過剰な配慮から医療者主導で判断することが多いのが実情だ。重要な局面であるほど,人は混乱するものである。むしろ,そのように反応してよいと保証される必要がある。精神科看護師は,患者とともに歩む粘り強さと温かさを身につけている。その感性をさらに磨き,患者が自分の人生を生きるための決定の1つ1つを支えていってもらいたいと願う。