特集にあたって

編集部

 精神科看護において,「聴く」ということは非常に重要かつ専門性を要する行為だと考えられる。患者の幻聴や妄想を把握し,治療へとつなげていく必要があるため,その内容はもちろん,表面的な言葉の裏にあるものにまで耳を傾けることが求められる。しかし,「聴きすぎる」ことによって,たとえば,妄想をさらに強化させ,症状を悪化させてしまうこともあるだろう。また,それにより看護師自身が疲弊してしまうことにもなりかねない。
 一般的に,看護教育のなかで「患者の語りを傾聴すること」は看護師の基本的な態度として教えられることも多いが,その際に「どのように聴けばよいのか」,技術として伝えることは容易ではない。何より看護業務は大変忙しく,また,1人で何人もの患者をみなければならないため,ある特定の患者だけの話をゆっくり聴くということは難しいだろう。
 このように,「聴く」「傾聴」という行為はマニュアル化が実に困難であり,それぞれの実践のなかで試行錯誤しながら行われているものだと考えられる。
 そこで,本特集では,精神科看護における「聴く」という行為に焦点をあてていく。「聴く」という行為にはどのような困難があるのか,臨床の現場でどのように「聴く」という実践は行われているのか,教育的な立場からいかに「聴く」と向きあっているのか。さまざまな視点から見ていくことで,「精神科看護の専門性」を考える。