特集にあたって

編集部

 精神科医療・看護における“動機づけ”は常に重要な働きかけです。しかし“動機づけ”の支援においては気をつけねばならない点があります。それは,“動機づけ”が医療者の一方的な押しつけになることで,一時“動機づけ”が成功したかに見えても,その継続性が保障されないという事態です。これはあえていえば,無意識の強制ともなりかねません。
 ここで重要であるのは「自己決定の確保が認められたうえでの動機づけ」であり,そこにおいて導かれるのは,自己決定は「ある」ものではなく,(対象と医療者の関係性において)「なる」ものという視点ではないでしょうか。こうしたことから今回の特集では“動機づけ”という言葉に含まれる「相手を変えよう」という前のめりの看護から脱却し,関係性をベースにおいた“動機づけ”のありようを検討しております。
 冒頭記事では看護との共同で行う「やわらかい自己決定」について解説いただきました。続いての記事では長期入院患者に対しノーマライジングの考えのもと相互理解を築き地域移行に成功した例をご紹介いただきました。またアルコール依存症患者の内発的動機づけを高めるケアリングや,「押しつけ」の看護を避ける方法として患者に関する諸現象をスペクトラムとして見る看護をご紹介いただきました。看護師の「治ってほしい」という願いと患者の「治りたい」という思いが,促進するきっかけになれば幸いです。