特集にあたって

編集部

 多様性,近ごろよく耳にする言葉だ。この多様性について,精神科看護に引き寄せて考えてみる。生物学的に疾患を把握する研究はなされていながらも,現時点で精神疾患を数値化してとらえることは困難であると言わざるを得ない。だからこそ実際のケアでは個別性が重視される。ケアが個別であるということはつまり,ケアの様相が多様であるということだ。
 多様であること。このことを手がかりに,精神科訪問看護を考えたのがこの増刊号である。ここで掲載されている訪問看護師の取り組みといえば,体調や服薬の確認はもちろんのこと,料理をつくる,マッサージをする,家電の廃棄を手伝う,はたまた畑を耕す……。これだけを見れば,「精神科訪問看護って,いったい何をしているの?」という疑問が浮かぶ。しかし,疑問が浮かぶほどの想像を超えた独自性に富む取り組みにこそ,精神科訪問看護の意味がある。
 あたりまえのことではあるが,人間とはそれぞれ多様な個性をもって生きている。利用者も同じく個性をもった人間であるから,何が効果的なケアとなるかはわからない。そのため訪問看護師からも個性を活かした多様なケアが必要で,そのなかで思いがけずに有効な手段が見つかる場合もあるだろう。人間には多様性があるという考えは忘れられやすい。それをあらためて思い出させ,自由な発想でケアを行う精神科訪問看護は,今後看護領域が担うべき役割の先駆者ではないだろうか。