特集にあたって

編集部

 本特集ではトラウマ・インフォームドケア(Trauma-Informed Care:以下,TIC)を紹介する。詳細は成書『トラウマ・インフォームドケア(精神看護出版,2018)』を参照していただくこととして,冒頭記事ではあらためてTICの概要を紹介しつつ,精神科医療・看護では,トラウマ的な体験をもつ精神疾患患者が制限下におかれる状況が多いことを念頭においた視点から記述する。制限には,行動の自由の制限,閉鎖的な環境,意見や意志が取り入れられない,決定に参加できないなど,多種多様のことがあり,そのもっとも顕著なことが隔離・身体的拘束である。この点について触れた後に,実践への具体的手法のいくつかを解説する。また最後に児童・思春期精神科看護におけるトラウマについての実践例と研究結果を紹介する。
 特集の後半では,実践者が行った臨床での3つの実践事例を紹介する。これらに共通するのは,「患者の問題行動の裏に潜むものに気づき適切なケアを提供する」という精神科看護における基本的な姿勢である。そしてTICを実践するヒントは,トラウマ・インフォームドレンズを磨くことであり,そのヒントは,今回の特集の事例のなかから見出せることであろう。なお,ケアが相互作用として発展するものである以上,TICの実践においては,支援者自身がもつトラウマ体験の吟味も重要である。今後,TICのさらなる臨床実践に向け,読者のみなさまと検討を続けたい。