特集にあたって

編集部

 看護が対人関係のプロセスだとすると,患者さんにとっては,看護師が疲弊しているよりは,精神的に健康でいてくれたほうがいい。とはいえ看護は,特に精神科看護は,患者さんに真摯に向き合えば向き合うほど,心が動かされるもの。そのなかには否定的な感情も当然あるでしょう。そして職業規範への意識が強ければ強いほど,そうした感情を抱いてはいけない,少なくとも顔に出してはいけない……と思い悩むことでしょう。だからこそ,“感情労働”という概念は,感情と看護のバランス間で揺れる看護師の内面を的確にとらえ,大きな共感を呼びました。
 本特集は「心にゆとりをもった看護ができるとき」と題しています。心にゆとりがもてるのは,当然のことながらとても理想的な状態です。ただ上述のように,看護は多くの場合,感情が不安定な患者さんを援助するため,その感情を正面から浴びることで湧き上がる否定的感情に見舞われます。看護が相互作用である以上,この否定的な感情は再び患者さんに流れ込みます。かくして援助関係は負のサイクルに突入する。この連鎖を断ち切るためには,自身のなかに生じた感情を排除することなく,向き合い,投げ返し,対話を生み出すことが必要です。本特集が,寄せては返す感情の波のなかで疲弊する看護師にとって,感情を客観的にとらえるきっかけになれば幸いです。