特集にあたって

編集部

 精神科看護師が精神科病院で,あるいは地域ケアの場面で,高次脳機能障害の患者さんを受け持つ機会もあると思います。そうした対象者とのかかわりの際,ともすれば情緒の障害・社会性の障害などの特性「のみ」をみて,「わけのわからない『問題行動』の多いやっかいな患者さん」というレッテルを貼り,場合によっては不適切なかかわりがなされてしまう可能性も捨てきれません。しかし,そうした対象者と向き合う看護師が,「高次脳機能障害の世界」を少しでも理解することができれば,そうした理解不足や不適切なかかわりを回避できるのではないでしょうか。これが,弊誌としてはじめて特集で高次脳機能障害を扱う動機です。
 上記のような理由から,まずは冒頭から5本連続で高次脳機能障害の体験者の声をお届けしています。それぞれの体験者の語りっぷりの多様さは,「高次脳機能障害」とくくられるこの障害の表れ方や,もたらす困難さの個別性を象徴するようです。そして体験者の1人が語る次の言葉は,看護師に限らず,すべての援助者が胸にとどめておくべきものでしょう。
 「当事者が苦しいと言っていることを無視しない,その言葉を軽視しない。『改善を促す劇的な何か』が存在せず,人生とともに歩まざるを得ないこの障害だからこそ,当事者にとって何よりありがたいのはそうした『肯定の姿勢』だ」。