特集にあたって

編集部

 2022(令和4)年の精神保健福祉法改正において,法の目的(第1条)に「精神障害者の権利の擁護を図りつつ」という文言が加わった。これまで「医療及び保護」とのみ示されてきた法の目的に新たな方向性が示されたこと自体は,精神科医療の歴史において画期をなす。ただ権利擁護とは,臨床現場でどのように起こり得るのか。具体的に権利擁護とはいったい何をすることなのか。必ずしも明白ではないし,課題は常にある。その1つであり,根本的な難題ともいえるのが,本特集で吉浜氏も述べるように,強制性を内包する精神科医療と「自律性の回復を通して,その人らしい生活ができるよう支援すること」という精神科看護の定義(日精看)との両立という点だ。ただ現に臨床はいまもそのように動いている。結局のところ,難題や矛盾を抱えつつ現実は粛々と進行していくものなのだろうが,難題や矛盾をないものとして扱うのではなく,その不安定さにとどまること,気づきつづけることも,精神科看護師としての倫理的な態度であるともいえないだろうか。
 本特集において「精神科における権利擁護」について,手のひらに乗せて示せるような何かを提示できているわけではないが,少なくとも(現在の)精神科医療・看護において権利擁護を実現させることの難しさについての共有はできるはずだと考えている。