特集にあたって

編集部

 障害の有無にかかわらず,みながともに生きていくという地域共生社会が目標とされる現在。精神疾患をもつ患者,当事者が地域で暮らしていくため,精神科看護師は患者,当事者本人の主体的な意思決定に留意しながら支援をする必要があるのではないでしょうか。その支援が具体的にどのようなものかを考えたとき,「交渉」という言葉が目にとまりました。
 なぜここで「交渉」なのか? まず精神科看護における「交渉」の定義とその活用,そして看護のなかでの「交渉」の重要性をご紹介します。ここでみなさまに「交渉」についてご理解いただいたうえ,「交渉」に先立つ自律性と社会性を,「折り合い」の観点から考えました。そして,「交渉」と呼ぶことができる実際の事例をご紹介します。
 「交渉」という言葉にはどこか打算的な印象をもたれることもあるかと思われます。しかし,人が社会のなかで生きるということは,本人の希望と周囲の状況の間で「納得のいく合意」をしながら,つまり「交渉」をしながら生きているということではないでしょうか。当事者―看護師間の「交渉」は,当事者が社会のなかで生きるための練習,橋渡しとなり得ます。そして意識はしていなくても,精神科看護師はすでに近しいことを行っているはずです。本特集から,新しい「交渉」のスタイルについて考えてみませんか?