特集にあたって

編集部

 医療現場において,薬物療法を円滑に進めるための「服薬支援」は重要なテーマです。しかし,どれほどていねいに薬の副作用や必要性を説明しても,患者との間に「空回りしている感覚(p.004)」を抱く支援者は少なくありません。その違和感の正体は,支援者が「正しく飲ませること」に執着するあまり,患者が薬に対して抱いている「意味」や「恐れ」を見落としていることにあるのではないでしょうか。
 本特集では,服薬を単なる病状管理の手段としてではなく,患者の人生やアイデンティティにかかわる切実な問題としてとらえ直します。p.004の事例で紹介されているように,「薬を飲むこと」が「病者として生きる絶望」や「閉ざされた未来」を象徴している場合,安易な励ましや知識の提供は,かえって本音を遠ざけてしまいます。「なぜ飲まないのか」という問いを,「飲まないことで何を守ろうとしているのか」という視点へ転換することが,支援の第一歩となります。
 また,臨床現場で生じる微細なズレを察知する感度の磨き方や沈黙を共有し,否定せずに聞くための対話の技術を掘り下げていきます。「服薬の完遂」を目標にするのではなく,本人が望む生活を維持するために薬をどう位置づけるか。患者の尊厳を支え,ともに「納得のいくつきあい方」を見出していくための新たな服薬支援のあり方について,当事者の言葉を交えながら提案します。