序文

 現在進行中の医療制度改革は、2005年12月にまとめられた「医療制度改革大綱」に沿って行われ、国民の医療に対する安心を確保する観点から、医療機能の分化と連携の推進、一部地域や診療科における医師不足問題への対応等についての措置が講じられている。しかし一面では、急激な高齢社会の到来と医療保険制度や年金制度の財源の破綻が大きな原因となって、持続可能な制度へと再構築するための抜本的な構造改革が行われているともいえる。
 こうした流れのなかで看護分野では、看護介入の目標を明確にし、効果を検証する視点が求められている。社団法人日本精神科看護技術協会は、精神科認定看護師制度を改定し、従来の4つの認定分野を見直して10領域に細分化すると同時に、精神科認定看護師の質を保証していくために、研修カリキュラムを大幅に見直した。この制度改定によって精神科認定看護師の技術が明確になり、介入の効果も検証しやすくなると考えられる。そのことが認定取得後のスキルアップにつながり、活躍の場もより拡大していくであろう。今後ますます機能分化が進んでいく精神科医療の現場で、精神科認定看護師のもつ専門性が、必要不可欠なものになっていくことが期待されている。
 本シリーズ『実践 精神科看護テキスト』は、新しい精神科認定看護師養成研修のテキストとして使われることを目的に企画された。精神科医療・看護をめぐる最新の知識・情報が網羅されているだけでなく、過去における精神科看護の経験と実践が集積されており、現在の精神科看護の全体像が現れているといってもいいだろう。精神科認定看護師をめざす人だけでなく、精神科で働く多くの看護師に広く役立ててもらえるものになったと考えている。
 しかし、実践に役立つ情報とは、時代に合わせて変化するものであり、これまでは有効な情報であっても、将来において有効な情報であるとは限らない。新しい精神科認定看護師制度は、時代の変化に対応できるように、単位取得期間を2年以内(単年度での取得も可)とした。さらに、いつでも最新の情報を提供するためには、精神科認定看護師養成カリキュラムだけでなく、このテキストも定期的に見直していかなければならないだろう。時代に合わなくなったものを変更し、新たな時代に必要なものを俊敏に取り入れる仕組みが必要なのである。読者のみなさんのご意見やご批判を乞いたい。
 いつの時代においても看護は、その時代に合った変化を求められ、看護師1人1人が実践で力を発揮することを期待されている。今後とも変化しつづける情勢のなかで精神科看護師を支援するだけでなく、患者の利益や安全を守るための実践活動を拡大していくためにも、多くの人々にこの書を利用していただくことを願っている。

『実践 精神科看護テキスト』編集委員長 天賀谷 隆